当院ホームページをご覧いただき、ありがとうございます。院長の達川伸行です。私がなぜ少子高齢化と称されるこの時代に子どもを専門に診るプロフェッショナルになったのかトピックスとともに【理念】もご紹介したいと思います。
僕は研修医時代に2つの大きな経験をいたしました。 1つ目は自分の歯のむし歯が深くなってしまい、歯髄処置(世に言う歯の神経の治療、歯の根っこの治療)になってしまいました。 そして大変不幸なことに、歯髄処置中に、歯の根の中で治療器具が折れてしまいました。 さらに不幸なことに、折れ方が悪かったため、その治療器具は実は今でも僕の歯の根っこの先に残っています。その際の歯医者さんは当時の僕にとっては非常に態度・対応が悪く感じ、憤りを感じました。
しかし、腹が立ったところでなにも解決も改善もしません。 そして、今後僕が同じく歯医者として治療していくうえで、同じく治療器具が破損してしまう可能性はゼロではありません。 この経験からも、僕は疾患の治療を極める人ではなく、疾患の発生予防に人生をかける人になりたい、と思うようになったのです。 折れた治療器具が僕の歯の根っこに残っているレントゲン写真は、いまでもその当時の気持ちを忘れないために大切にとってあります。
2つ目は手遅れな患者さんを多く担当したことです。 何を持って手遅れとするのかは、人それぞれあると思います。ここでは僕が、もうちょっと早く来てくれたら、もうちょっとよい治療計画が提案できたのになぁ、と思った患者さんのことです。
とても印象に残っている患者さんがいます。その患者さんは僕の研修先へ受診にいたる半年前に、地元の歯医者さんで治療してもらったそうです。とても白くてきれいなブリッジとよばれる被せ物をしてました。かかった費用は上下で数十万~100万くらいだそうです。その被せ物を入れてもらった初期の頃は、綺麗でよく噛めると、すごく嬉しかったそうです。しかし、半年もしないうちに、被せた歯がグラグラしてもう全然噛めず、食事がとれない状況になってしまったということで来られました。
治療計画を立てるためにも、指導医から口の中の型取りをすること提案いただきました(説明や同意取得等は指導医がされてます)。僕は、歯がすごくグラグラしているので、嫌だなぁ、怖いなぁ・・・と思いながら、型取りをしました。そうすると、型取りを外すときに、被せ物ごと歯が全部抜けました。患者さんは涙、涙、僕の頭の中は真っ白。茫然自失です。それをみた指導医はその型取りしたものを僕からさっと取り、その後電光石火の職人技で、被せ物を歯から外し、歯を元の位置に戻し、少しでも噛めるように被せ物の代わりに間に合わせの入れ歯を作りました。
正直当時の研修医の僕には、指導医の技は複雑かつ非常に早く、よく理解きなかったので詳細まで正確には覚えてません。でもその日の最後に、患者さんが少しでも噛めるようになりましたと泣きながら喜んでいたのを覚えてます。当時の診療会議では、残っている歯に負荷をかけすぎるような設計をしてて、なんでこんなものをいれたんだ?という話になってました。ただここで、地元の歯医者さんが悪いのか、患者さんの管理が悪いのか、そういったものを議論したり、その歯医者さんを糾弾したいわけでもありません。また、僕はその職人技に心を奪われるよりは、型取りのときに抜けてしまった歯の感触と患者さんの涙で胸がいっぱいでした。
そして、その時に僕が考えたのは、もっと早く来てくれたら、もっとよりよい設計のブリッジが設計できたのに・・・、いや、もっともっと早くきてくれたら、そもそももう少し残せる歯があったんじゃないか、いや、もっともっともっと早くきてくれたら・・・ と考えていくうちに、そうか子どものうちから予防をするのが正解なのではないか という思いにたどり着きました。
むし歯を治療した後の詰め物、被せ物は永遠にはもちません。 僕は小さいころから甘いものが大好きで、非常に多くの虫歯がありました。僕の口の中にはたくさんの詰め物や被せ物が入ってます。 これらの詰め物や被せ物は接着剤で歯にくっついてます。いくら歯みがきをしても、これらの劣化を防ぐことはできません。 一般的に10年前後で(もちろん上手な先生でもっと長く持たせられる先生はいらっしゃいます)ダメになってしまいます。 詰め物や被せ物がダメになってしまったら、再度しんどい思いをして再治療です。
現在進行形で僕も再治療、再治療を繰り返しでしんどい思いをしています。 そして再治療のたびに、どんどん自分の歯は小さくなっていっています。 いくら勉強しても、いくら研鑽を重ねても、もう自分の歯は元に戻りません。 オレンジジュースを飲んだり、甘いものを食べるとしみることもあります。 悲しいししみるし、治療はお金も時間もかかるし、治療を受けるのはしんどいです。 でも後悔しても遅いのです。どうにもならないものはどうにもなりません。きっとまた10年後ぐらいしたらどこか再治療が必要なところがでてくるんだろうなと諦めております。 こういった研修医時代のトピックスや、自己の後悔から、疾病予防(重症化予防を含む)に携わりたくて子どもを診るプロフェッショナルとなることを志しました。
よく小児歯科で診療をしていると、治療の計画や提案を投げかけた保護者さんにこう聞かれます。 「先生の子どもだとしたらどうしますか?」 自分の子どもにやらないようなことはご提案いたしません。同じ状態になったら、基本的に僕は僕の子に僕の提案する治療の計画や提案を受けます。ただそのまえに、予防のできる疾患であったとしたら?もし僕の子だったら?答えは、その状態にならないように予防や努力をいたします。これが僕の本当の回答です。
達川伸行
■院長略歴
広島市立基町高等学校 卒業
東北大学歯学部歯学科 卒業
広島大学大学院 卒業 (歯学博士)
広島大学病院小児歯科学教室 助教